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消滅した名パートナー本木荘二郎と黒澤明の関係を暴くムカシ買った本『虹の橋』を再読する

先日。
黒澤明『七人の侍』を久々に劇場で観ましたが、
(京橋フィルムセンターですが)

タイトル直後のスタッフ・クレジットの最初に

制作:本木荘二郎

の名が単独で燦然とスクリーンに躍った時、
20数年前、通りすがりに新刊で買った1冊の奇書を思い出しました。

藤川黎一著『虹の橋~黒澤明と本木荘二郎』(虹プロモーション/田畑書店1984)

IMG_convert_20101121002323.jpg

本木荘二郎は1947年から10年間の黒澤明作品(以下)
のプロデューサーを務めます。

『素晴らしき日曜日』(1947東宝)
『酔いどれ天使』(1948東宝)
『静かなる決闘』(1949大映)
『野良犬』(1949東宝)
『醜聞』(1950松竹)
『羅生門』(1950大映)
『白痴』(1951松竹)
『生きる』(1952東宝)
『七人の侍』(1954東宝)
『生き物の記録』(1955東宝)
『蜘蛛巣城』(1957東宝)
『どん底』(1957東宝)

そして何らかの金銭的な問題を起こし、
『どん底』制作中に東宝との契約を解除されます。

その後は黒澤明と絶縁し、
200本余のピンク映画を撮りまくり、
1977年、新宿成子坂のアパートで孤独死。
享年62歳。

いったい何があったのか?

本書を奇書と記憶していたのは、
そうした題材以上に、多分本書の持つ特異な空気感によるものです。

事実を調査し、関係者の取材を重ね、実名を次々登場させながらも
本書は私小説風の構成になっています。

主人公風祭啓三は海外留学した知人女性の留守宅に住み、
ちり紙交換で日銭を稼ぎ、サラ金から借金し、
小説を書いたこともあるようですが、
いまは本木荘二郎の真実を追求する毎日を過ごしています。

そんな平凡ならざる日常の
憤懣と諦観を行き来する主人公=筆者の想念が、
独善的な文体と相俟って、
人間関係の滓のようにページの各所にまとわりついている。

今回再読して思ったのは、
この話はこんな特異な小説空間の中でのみ
語られるべきものかも、ということです。

終わり近く、
谷口千吉のこんな「証言」があります。

「(使い込みや文書偽造が露見して)東宝とのプロデューサー契約は解除された。
黒澤と本木とぼくの三人で善後策を話し合った。
本木いわく『生涯二度と姿を見せない』。
黒澤いわく『おまえはあの世に行ったものと思っている』。
後のことは黒澤にじかに聞いてほしい。とにかく、逢うことだ。
逢えよ、逢うべきだ。本木のためにも絶対逢えよ」

そしてラスト・シーン、
主人公は黒澤明と対面し、ある「伝言」を伝えます。

ともあれ、
黒澤~本木という大コンビに後年起こったことは、
谷口の証言中にある二人の約束のままのことです。

しかし、
本木の凋落や貧窮に関わらず、
なぜ約束はここまで強く守られなければならなかったのか?

元の仕事場から救いの手は一切なかったのか?

追放は「黒澤下ろし」の動きに巻き込まれたのか?

黒澤という巨大過ぎた存在の、負の引力圏に放置され抹殺されたのか。

そのあたりは作者のいう、
小説は真実を暴く、という範疇に属するものかもしれません。

腰巻にはこんな推薦文が並んでいます。

・一発の銃弾黒澤明のハートを射抜く。さいとうたかお(劇画家)
・これはね、黒澤くんの『羅生門』を越えたよ。永田雅一(大映元社長)
・ミステリー小説、青春小説、実録小説をのみこんだ、
 敗者復活の人間文学……面白い。中村八朗(作家)
・陽の当らない場所から本木荘二郎を引っ張り出してやって下さい。菊島隆三(シナリオライター)
・映画に殉じておのれを消滅させた、ひとつの存在の名誉回復に、
 文学的手段が選ばれたことが惜しまれてならない。蓮實重彦(東大助教授)
・異常な執念、黒澤明のおとこをあばく。団鬼六(作家)

永田雅一のは、
本書中の証言はすべて『羅生門』の原作以上に『藪の中』、
ということでしょう。

蓮見重彦の真意は測りかねますが、
より批評的なスタンスで、
黒澤作品における本木荘二郎の位置が語られることもあってよい気がします。


ネットを検索したら、
『噂の真相』1983年11月号に特集記事が載っているのを見つけました。

『黒澤明の影武者・本木荘二郎を描いた新刊本の舞台裏』
(石村義一の署名原稿)

何と電子書店パピレスというところで買えるではないか。
すぐにゲット。
実に便利な世の中。
11ページ350円は高いが安い。

(どーでもいいが、掲載号は84年11月号または12月号の間違いではないか。
『虹の橋』の奥付にある発行日は1984年10月21日)

文中、著者のこんなコメントがあります。

「書き上げた原稿を持って出版社を回りましたよ。
文芸春秋の社長上林吾郎の知遇を得ましてね、
『本にする、その前に文学界に連載してみたらどうか』
と言われましてね、とてもうれしかったんですがね、
ひとつだけ条件が付いたんです。
つまり、実名を仮名にしろといったようなことです。
断りました」

つまり、
『虹の橋』は小説ですが、
仮名を拒否する種類の小説であるということでしょう。

特集記事の最後はこう結ばれています。

「ともあれ、若手の無名のライターがサラ金をだましてまで
取材費を手にして、精力的に映画界の謎をテーマに動きまわった
という実績だけは十分に読み取れる本である」


サイトはさらに、
『週刊ポスト』今年の7/23号に
本木荘二郎伝が載ったらしいことまで教えてくれました。

これも絶対読んでみないとね。
パピレスには売ってなかったけど。

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テーマ : 日本映画
ジャンル : 映画

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プロフィール

雑木林進&ぽぽぱんち

Author:雑木林進&ぽぽぱんち
日々の旅人とその番犬たち。
1986年、ジャズ批評誌掲載の「50年代はなぜエライ」「『ジャズ大名』におけるジャズ・フェスティバルの生成」などでスルドくデビュー。2010年より、同誌に編集部新着本全紹介「ジャズは手に取って読め!」連載開始。新ジャズ雑誌「ジャズジャパン」創刊号(2010年8月)より、古今東西ジャズ本紹介「ジャズは本棚に在り」連載開始。
aka 行方均(レコード制作者)
最近の一句;
本積んで/読み齧る人/齧る犬
墨東の/タワーひとりで/たけくらべ

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